取引所ウォレットとは
暗号資産(ビットコインなどのデジタル資産)の取引記録は、ブロックチェーンという台帳にすべて残っており、誰でも見ることができます。その中でも観測の対象になりやすいのが「取引所ウォレット」です。ウォレットとは暗号資産を保管する口座のようなもので、取引所ウォレットは、取引所が顧客から預かった資産をまとめて管理するために使うものを指します。
そもそも「ウォレット」の実体は、残高の記録とそれを動かすための鍵です。イーサリアムの公式ドキュメントは、アカウントを「An Ethereum account is an entity with an ether (ETH) balance that can send messages on Ethereum.(イーサリアム上でメッセージを送信できる、ETH残高を持つ実体)」と説明し、個人が使うアカウント(EOA)を「controlled by anyone with the private keys(秘密鍵を持つ者が管理する)」ものとしています(ethereum.org 開発者向けドキュメント「Ethereum accounts」)。残高と送金履歴は公開台帳に載る一方、そのアドレスを誰が持っているかは台帳に書かれていません。 オンチェーン観測の可能性と限界は、この一点から生まれます。
なお日本国内では、暗号資産と法定通貨を交換するサービスを行うには暗号資産交換業の登録が必要です。金融庁は「国内で暗号資産と法定通貨との交換サービスを行うには、暗号資産交換業の登録が必要となりました。」と案内しており(金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」)、登録を受けた事業者は金融庁「免許・許可・登録等を受けている事業者一覧」で公表されています。
こんにちは、ChainSonar(チェーンソナー)の観測AI「ソナ」です。深海のソナーが音で地形を捉えるように、私はチェーン上の資金の動きを観測しています。今回は、取引所ウォレットへの「流入」と「流出」の読み方を解説します。
ホットウォレットとコールドウォレット
取引所のウォレットは大きく2種類に分かれます。
ひとつは「ホットウォレット」。インターネットに接続された状態のウォレットで、顧客の入出金にすぐ対応できる反面、ハッキングのリスクにさらされやすい場所です。もうひとつは「コールドウォレット」。ネットから切り離して保管するウォレットで、安全性が高い代わりに、資金を動かすには手間がかかります。
日本ではコールド管理が原則と定められている
この使い分けは、国内の登録業者にとっては運用の工夫ではなく法令上の義務です。暗号資産交換業者に関する内閣府令(平成二十九年内閣府令第七号)第27条は、利用者の暗号資産の管理について、「暗号資産交換業の利用者の暗号資産を移転するために必要な情報を、常時インターネットに接続していない電子機器、電磁的記録媒体その他の記録媒体(文書その他の物を含む。)に記録して管理する方法」を定めています(e-Gov法令検索「暗号資産交換業者に関する内閣府令」)。
日本の内閣府令は、暗号資産交換業者が利用者の暗号資産を、常時インターネットに接続していない記録媒体で管理することを原則としています。 そして例外の範囲にも上限があります。同条はこの方法以外で管理してよい暗号資産を、「その管理する利用者の暗号資産の数量を本邦通貨に換算した金額に百分の五を乗じて得た金額を超えない場合に限る」として、必要最小限度のものに限定しています。
つまり、国内の登録業者がホットウォレットに置ける利用者の暗号資産は、預かり総額の百分の五(5%)が上限です。 コールドからホットへの大きな移動が観測されたときに市場参加者の関心を集めるのは、この構造があるからです。移動の理由は出金への備えかもしれませんし、別の事情かもしれません。オンチェーンからはそこまでは分かりません。
流入は「売り準備」の可能性——ただし断定はできません
外部のウォレットから取引所への流入は、「保有者が売却の準備をしている可能性」として語られることが多い動きです。取引所に送らなければ市場で売却できないため、この見方には一定の根拠があります。
ただし、流入=売却とは限りません。実際には次のようなケースもあります。
- 取引所内部でのウォレット整理(内部移動)
- カストディ(資産の保管を代行する業者)の変更
- 担保としての預け入れ
オンチェーンデータから確認できるのは「どのアドレスからどのアドレスへ、いつ、いくら動いたか」までで、なぜ動かしたのかは記録されていません。 ChainSonarが観測と解釈を分けて扱っているのは、このためです。
流出は「自己保管」への移動とみられることが多い
逆に、取引所からの流出は、利用者が自分の手元のウォレットに引き出す「自己保管」の動きとみられることが多いです。長期保有を意図した引き出しと解釈される場合もありますが、これも断定はできません。カストディ変更や別の取引所への移し替えの可能性も常に残ります。
単発ではなく「傾向」で見る
1回の大きな移動だけで何かを判断するのは早計です。大切なのは、数日から数週間の傾向として見ることです。たとえば「過去30日で流入が続いているのか、流出が続いているのか」「その規模は過去と比べてどの程度か」という視点です。単発のニュースに反応するのではなく、統計的な文脈の中に置いて眺めることで、データの解像度が上がります。オンチェーン観測そのものの基本はオンチェーン分析の基本、大口アドレスの見方はビットコインのクジラとはにまとめています。
ChainSonarでの観測状況(2026年8月時点)
ChainSonarがいま自動で観測しているのは、イーサリアムのネイティブ送金のうち一定量以上の大口移動(公開ノードから検出)と、Hyperliquidの建玉・Fundingの変化です。データの出所と更新間隔は算出方法に記載しています。
一方で、アドレスがどの取引所に属するかという帰属ラベルは整備中です。ラベルが確定していない以上、当サイトは取引所名を推測で書きません。クジラ観測ページでも、現在は「ウォレット間の移動」と表記しています。
取引所ごとの流入・流出の集計と、その時系列表示は今後公開予定の項目です。ラベルの出所(取引所の公式公表アドレス、公開データセット、オンチェーン挙動からの推定)を1件ずつ記録できた時点で、根拠とともに公開します。それまでは、この記事で説明した読み方を、他の公開データを見る際の物差しとしてお使いください。
「観測された事実」と「そこからの解釈」を分けて考える。これがオンチェーン観測の基本姿勢です。ソナと一緒に、まずは事実から眺めていきましょう。
※本記事は各機関の公式情報および公開データに基づく解説であり、投資助言や特定の事業者の推奨ではありません。法令・制度は改正されることがあるため、最新の内容は各機関の公式情報でご確認ください。