上場企業のビットコイン保有とは、企業が自社の資産としてビットコインを取得し、その保有量や平均取得単価を適時開示で公表している状態を指します。
日本企業のビットコイン保有を語るとき、たいていは保有量の順位が話題になります。ですが、各社の含み損益を実際に分けているのは保有量ではありません。いつ買ったかです。
本記事は、14社の適時開示から平均取得単価を1社ずつ取り出して並べ、取得時期の違いが何を生んだかを整理します。各社の保有量と現在の評価額・含み損益は日本企業BTCダッシュボードに掲載しています(評価額・含み損益は15分ごとに再計算、保有量・平均取得単価は適時開示が出るたびに更新)。本記事では動く数字を固定せず、開示された取得単価という動かない数字だけを扱います。
円建ての平均取得単価を開示している12社
本記事が扱う14社のうち、円建ての平均取得単価を適時開示で確認できたのは12社です(2026年9月7日時点、出典は各社の適時開示原文)。
| 企業(コード) | 平均取得単価 | 基準日 |
|---|---|---|
| ネクソン(3659) | 6,446,183円/BTC | 2021-04-28 |
| ダイドーリミテッド(3205) | 10,742,784円/BTC | 2026-03-30 |
| KLab(3656) | 11,409,456円/BTC | 2026-06-30 |
| gumi(3903) | 12,430,257円/BTC | 2025-06-11 |
| イオレ(2334) | 14,724,092円/BTC | 2026-02-27 |
| ANAPホールディングス(3189) | 14,756,285円/BTC | 2026-04-21 |
| メタプラネット(3350) | 15,331,542円/BTC | 2026-06-30 |
| 北紡(3409) | 16,213,150円/BTC | 2026-05-11 |
| ジーイエット(7603) | 16,825,857円/BTC | 2025-11-05 |
| Lib Work(1431) | 16,867,286円/BTC | 2025-10-06 |
| エスクリプトエナジー(5721) | 16,878,171円/BTC | 2025-10-02 |
| マーチャント・バンカーズ(3121) | 17,000,000円/BTC | 2025-09-29 |
残る2社は円建ての平均取得単価を開示していません。リミックスポイント(3825)の開示に出てくるのは簿価で、同社は保有暗号資産を四半期ごとに時価評価しているため、簿価は取得原価ではありません。AIフュージョンキャピタルグループ(254A)は各回の購入単価のみで累計平均を開示していません。どちらも当サイトは推計せず、含み損益を計算していません。
表の最上段にあるネクソン(3659)は、他社と性格が違います。取得は2021年4月28日で、2番目に古いgumi(2025年6月)より4年以上早く、単価も次に低いダイドーリミテッド(3205)の約60%です。同社の2021年4月28日付発表(PDF)は「手数料及び経費を含め、1ビットコイン当たり平均取得価額約58,226ドル(6,446,183円)で、1,717ビットコインを購入」と記載しています。米ドル建てと円建ての両方が開示されている点も他社にありません。
比較の前提として、この12社の数字は基準日がそろっていません。同じ表に並んでいても、2021年4月時点の確定値と2026年6月時点の確定値が混在しています。
2025年秋に買い終えた4社が、1%以内に固まっている
表の下位4社を見てください。
- マーチャント・バンカーズ 17,000,000円(2025-09-29)
- エスクリプトエナジー 16,878,171円(2025-10-02)
- Lib Work 16,867,286円(2025-10-06)
- ジーイエット 16,825,857円(2025-11-05)
最も高い社と最も低い社の差は174,143円、率にして約1.0%です。4社はそれぞれ独立に意思決定していますが、取得を実行した時期が2025年9月末から11月初旬に重なった結果、平均取得単価がほぼ同じ水準に着地しました。
いずれも「決議した金額を、決められた期間で買い切る」型です。Lib Workは2025年9月8日から9月29日までの約3週間で5億円分を、エスクリプトエナジーは50億円の枠を2025年10月2日に消化完了、ジーイエットは2025年8月21日から11月5日までの8回で124.8079 BTCを取得しています。買い切った時点で平均取得単価は確定し、以後は動きません。
取得時期がそのまま単価になった——これが一括取得型の性質です。
同じ一括取得型でも、時期が半年ずれると水準は変わります。ダイドーリミテッド(3205)は2026年3月30日に23.2714 BTCを取得し、同日付の適時開示(PDF)に「① 購入金額:249百万円 ② 購入枚数:23.2714BTC ③ 購入単価:10,742,784円」と記載しています。買い切る型である点は上の4社と同じで、違うのは買った時期だけですが、単価は4社の約63〜64%の水準に収まりました。
平均が動き続ける社と、止まった社
一方、継続的に買い増している社の平均取得単価は動きます。
メタプラネット(3350)は2026年4〜6月期に2,823 BTCを12,712,055円/BTCで取得しました(2026年7月2日付適時開示(PDF))。この単価が既存の平均を下回ったため、全体の平均取得単価は2026年3月末の15,515,598円から6月末の15,331,542円へ低下しています。43,000 BTCという規模を持つ同社でも、四半期ごとの取得で平均は動きます。
KLab(3656)はさらに顕著です。2026年6月に19.8 BTCを10,088,424円/BTCで取得しており、これは同社の平均購入単価11,409,456円を下回る水準です(2026年7月1日付「ビットコイン及びゴールドの追加購入に関する月次報告」(PDF))。円建ての平均取得単価を開示している各社のなかで同社が3番目に低い水準にあるのは、取得を重ねるたびに平均が下方向へ更新されてきた結果です(同社より低いネクソンとダイドーリミテッドは、いずれも1回限りの取得です)。
イオレ(2334)も同様に、2026年2月6日から2月27日の追加取得を約9,864,409円/BTCで行い、累計平均を約14,724,092円/BTCとしています。同社の取得ペースは第14回新株予約権の行使進捗に連動しており、資金調達と取得が結び付いている点が特徴です。
北紡(3409)は2025年7月から購入を継続していますが、2026年4月は購入枚数0 BTCと開示しました。継続開示型の社は「買わなかった月」も記録に残ります。
一括取得型は取得時期の1点で単価が決まり、継続取得型は取得を重ねるたびに平均が更新される。同じ「含み損」でも、その数字が今後動く余地があるかどうかは、この2類型で異なります。
同じ含み損でも、損益計算書に出る社と出ない社がある
もうひとつ、比較のうえで見落とされやすいのが会計処理です。
ビットコインを自社で保有する社の多くは、保有残高を四半期ごとに時価評価し、評価損益を損益計算書に計上します。ANAPホールディングス、gumi、Lib Work、エスクリプトエナジー、北紡はいずれもこの方針を開示しています。ANAPホールディングス(3189)は2026年4月22日開示で、評価損益△3,845,842,591円のうち2025年8月期までに計上済みが1,218,561,531円、当年度に帰属する分が△5,064,404,122円と内訳まで示しました(当社グループによるビットコイン購入に関するお知らせ(PDF))。含み損が業績にどう乗るかを、開示の側で分解している例です。
これに対しジーイエット(7603)は、2026年3月31日付で保有ビットコインを原資にBTC建てファンドへ出資しました。2026年7月10日開示によれば、出資後の運用成果は純資産のその他有価証券評価差額金(46百万円)として計上され、出資前に自己保有していた期間の評価益は営業外収益の暗号資産評価益(93百万円)として計上されています。評価差額の計上先が損益計算書から純資産へ移った形です。ただし2026年3月31日開示によれば、このファンドの投資対象は「主にデジタルアセットを原資産とする先物等のデリバティブ取引」で、ロング・ショートの双方を組み合わせる戦略です。現物のビットコインを持ち続けるのとは異なり、BTC建てのNAVは運用成果に応じて増減します。
同じ価格変動を受けても、それが損益計算書に現れる社と、純資産の内訳として現れる社がある。含み損益の数字だけを横に並べても、業績への効き方は一致しません。
「保有」の中身も1社ずつ違う
さらに、保有の形態自体が分かれています。
- レンディング運用: リミックスポイント(3825)は2026年8月1日時点で1,503.75033699 BTCを貸出元本としてレンディングに出し、2026年2月24日から8月31日までに14.92055902 BTC(164,218,522円)の期間貸借料を得ています。同社は2026年9月1日に保有アルトコインの全部を売却し、暗号資産はビットコインのみになりました。イオレ(2334)も取得したBTCをレンディングで運用中と開示しています。
- ファンド持分: ジーイエット(7603)は前述のとおりBTC建てファンドへの出資という形です。
- 担保に差し入れられた保有: コンヴァノ(6574)は2026年8月10日に保有暗号資産の売却を完了しましたが、株主優待の交付に充てる分と担保提供中の分は売却の対象外としています。保有していても直ちに動かせない状態がありうる、という例です。
- 他資産との組み合わせ: KLab(3656)はビットコインと純金上場信託を67.48%対32.52%の比率で保有しています。
「日本企業のビットコイン保有」という1つの言葉の下に、現物の自社保管、貸出中の元本、ファンドの持分、担保に差し入れ中の資産が混在しています。保有をやめた社がどう説明したかは日本企業がビットコインを売るときに記録しています。合計値を足すときは、この中身の違いが消えることを意識しておく必要があります。
開示の頻度も比較の材料になる
どの会社情報をいつ開示するかは取引所の適時開示制度で定められていますが、その範囲を超えて自主的にどこまで細かく出すかは各社の判断です(制度の概要は日本取引所グループ「会社情報の適時開示制度」)。
取得完了時にだけ開示する社(gumi、Lib Work、マーチャント・バンカーズなど)は、その後の増減が外から見えにくくなります。反対に、メタプラネットは四半期ごと、北紡とイオレは購入状況を定期的に開示しています。KLabは月次で報告していましたが、2026年7月1日開示で四半期ごとへの変更を告知し、2026年7月以降の状況は同年10月1日に報告される予定です。
つまり、ある社の「最新の保有量」の鮮度は社ごとに違います。本サイトのデータでも、保有量の基準日は2021年4月から2026年9月まで幅があります。合計値はこの基準日が混在した合算である点を、日本企業BTCダッシュボードでは明示しています。
まとめ
- 含み損益を分けているのは保有量ではなく取得時期です。2025年秋に買い切った4社の平均取得単価は約1.0%の幅に収まりました
- 一括取得型は単価が確定し、継続取得型は取得のたびに平均が更新されます
- 同じ含み損でも、損益計算書に出る社と純資産の内訳に出る社があります
- 「保有」の中身は現物の自社保管・貸出中の元本(レンディング)・ファンド持分・担保に差し入れ中の資産に分かれています
各社の評価額・含み損益の最新値は日本企業BTCダッシュボードで、BTC価格の観測に合わせて15分ごとに再計算しています(保有量・平均取得単価は適時開示が出るたびに更新)。1社ずつの経緯は各社ページに、掲載14社の一覧と撤退した企業の記録は適時開示で確認できた日本企業のビットコイン保有にまとめています。
※本記事の数値はすべて各社の適時開示原文に基づきます。基準日と開示原文へのリンクは各社ページおよび日本企業BTCダッシュボードに掲載しています。記載内容の誤りにお気づきの場合はお問い合わせからご連絡ください。
※本記事は開示に基づく事実の記録および機械計算(当社試算)であり、個別銘柄の売買を推奨するものではありません。含み損益は会計上の評価損益とは算出方法が異なる場合があります。