企業のビットコインについて書かれた記事は、たいてい「買った」話です。しかし上場企業の場合、売却も適時開示という形で必ず公開の記録に残ります。そして売却の開示には、購入時には出てこない情報が並びます。売却額、売却時点の評価額、売却損、そして売却後の保有残高です。
このページは、2026年にビットコインの保有をゼロにした国内上場企業3社と、一部を残して売却した1社を、開示原文から記録したものです。売った理由は3社3様で、いずれも「価格が下がったから」だけでは説明できません。
現在も保有している14社は適時開示で確認できた日本企業のビットコイン保有に、取得単価の比較は日本企業のビットコイン保有14社を比較するにあります。
保有をゼロにした3社
| 企業(コード) | 売却日 | 売却枚数 | 売却額 | 売却損 | 売却の理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| CRAVIA(6573) | 2026-02-03 | 4.68504141 BTC | 56,776千円 | 7,952千円 | 事前に開示していたロスカットルールに抵触 |
| enish(3667) | 2026-06-09 | 8.063 BTC | 79,265千円 | 6,222千円 | Solanaを用いた新事業の投資資金の確保 |
| クオンタムソリューションズ(2338) | 2026-08-31 | 5.07 BTC | — | — | AIインフラ事業の資金需要 |
クオンタムソリューションズの売却額と損益が「—」なのは、同社の開示がETHとBTCをまとめて「合計約50百万円の売却益を計上する見込み」と記載しており、BTC単独の金額を分けていないためです。当サイトは開示に書かれていない数字を推計しません。
1. CRAVIA — 事前に公表した売却基準が、そのとおり発動した
CRAVIA(6573)は2025年4月9日に総額10百万円の試験的購入を行い、その後2025年7月16日から8月25日にかけて10百万円ずつ7回購入しました。合計4.68504141 BTC、購入金額合計80百万円です。
この会社が他と違うのは、買うと決めた時点で売る基準も公表していた点です。2025年6月30日開示で「ロスカットルールは投資金額の30%まで、これに抵触した際には購入分を売却する」と定めています。
そして2026年2月3日、その基準が発動しました。同日の開示(PDF)はこう書いています。
このたび当社のビットコイン取得単価平均 17,075,623 円を 30%以上下回りましたため、上記の規定に従い、現在所有しているビットコイン全部を売却することを決定いたしました。
売却後の所有枚数は0 BTC、評価額は0円と明記されています。売却額は56,776千円、2025年12月期末における評価額は64,728千円で、売却による損失は7,952千円でした。
ここで記録しておきたいのは、この売却が判断ではなくルールの執行として説明されていることです。あらかじめ基準を開示していたため、同社は売却の理由を市況の解釈ではなく規定の適用として書くことができました。適時開示を追っている限り、取得時に売却基準まで公表している社は多くありません。
なお同社は暗号資産投資そのものをやめたわけではなく、開示は今後について「長期的な視点から暗号資産への投資を継続していく予定」と記載しています。売却で受領した資金はM&Aおよび新規事業投資に充当する予定とされています。
2. enish — 売却は暗号資産からの撤退ではなかった
enish(3667)は2025年4月1日にビットコインの取得を公表し、合計8.063 BTC(取得価額104百万円)を保有していました。2026年6月9日の取締役会で保有する全部の売却を決議し、同日付で実行しています。
売却の理由は、同社が2026年6月3日に公表した「Solanaを活用した『アクティブ・トレジャリー事業』」の推進準備です。開示は「当該事業の推進準備の一環として投資資金を確保するため」と記載しています。同社はこれをDAT2.0と呼び、デジタルアセットを活用した収益創出と事業成長の循環を伴う新たな事業モデルと説明しています。
売却額は79,265千円、2026年3月末における評価額は85,487千円、売却による損失は6,222千円でした。2026年6月9日付適時開示(PDF)は「本件売却後、当社が保有するビットコインはありません」と記載しています。
つまりこの売却は、暗号資産から手を引いたのではなく、ビットコインの現物保有から別の暗号資産を使う運用事業へ資金を移した動きです。同じ取締役会では、ステーブルコインを含む暗号資産の取得および保有について適宜検討・実施していく方針も決議されています。
3. クオンタムソリューションズ — 事業投資の資金需要で段階的に手放した
クオンタムソリューションズ(2338)は、連結子会社である香港法人GPT Pals Studio Limitedを通じて暗号資産を保有していました。取得資金は外部借入(1,000万米ドル)で、開示も米ドル建てで行われていた点が他社と異なります。
保有量は段階的に減っています。
| 時点 | BTC保有量 |
|---|---|
| 2025-10-02 | 11.57 BTC |
| 2026-01-14 | 5.07 BTC(一部売却) |
| 2026-08-31 | 0 BTC(残り全量を売却) |
2026年9月1日付適時開示(PDF)は「BTC につきましては、GPT が保有していた5.07 BTC の全量を売却したことから、本件売却後の BTC 保有残高は0 BTC となります」と記載しています。
売却の目的は、AIインフラストラクチャ(AIDC)事業に係るデータセンター利用契約、GPU設備導入および事業立上げ準備等の資金需要への対応と開示されています。
この会社もイーサリアムの保有を続けており、暗号資産そのものからの撤退ではありません。ただし同開示によれば、保有する3,050 ETHは全量が借入れに係る担保として差し入れられており、「現時点においてGPT が直ちに売却できる ETH の残高はありません」と記載されています。保有していることと、動かせることは別だという例です。
一部を残して売却した1社 — コンヴァノ
コンヴァノ(6574)は2026年7月24日付「保有する暗号資産の売却方針に関するお知らせ」に基づき、2026年8月10日をもって売却を完了しました。売却損は約298百万円です。
ただしこの会社の保有はゼロになっていません。2026年8月13日付適時開示(PDF)は、売却の対象について次のように書いています。
株主優待制度に基づく優待品の交付に充当する分及び担保提供中の分を除き、当社グループが保有しておりました本暗号資産について、売却を完了いたしました。
優待品の交付に充てる分は「引き続き保有」とされ、担保提供中の分については、被担保債務の完済に伴い返還された場合に売却方針に従って売却するとしています(代物弁済がなされた場合は返還が生じない旨も併記されています)。
「売却を完了しました」という見出しだけを読むと保有ゼロと受け取れますが、本文には対象外の分が書かれています。売却後の保有数量は開示されていないため、当サイトは同社の保有量を表示していません。
売却損が財務諸表に出る時期は、社ごとにばらける
同じ2026年の売却でも、損益が計上される四半期は決算期の違いでずれます。開示に書かれた計上予定は次のとおりです。
| 企業 | 計上する会計期間 |
|---|---|
| CRAVIA(6573) | 2026年12月期 第1四半期(営業外費用) |
| enish(3667) | 2026年12月期 第2四半期(営業外費用) |
| クオンタムソリューションズ(2338) | 2027年2月期 第2四半期(ETHとBTC合計で約50百万円の売却益) |
| コンヴァノ(6574) | 2027年3月期 第2四半期 |
クオンタムソリューションズだけが売却「益」なのは、同社が2027年2月期第1四半期末(2026年5月31日時点)における時価評価後の帳簿価額を基礎として損益を算定しているためです。取得原価との比較ではなく、直前の四半期末に評価替えした後の簿価との比較になっています。
売却損益をどの数字と比べて出すかは、その社の会計処理によって変わります。開示された売却損益の額だけを社間で並べても、同じ物差しにはなりません。
売る側の開示は、買う側より情報が多い
購入時の開示は「取得しました」「追加購入しました」という見出しで、数量・購入金額・平均取得単価が書かれるのが基本です。これに対して売却時の開示には、次の項目が定型的に並びます。
- 売却した枚数
- 売却額
- 直近の期末または四半期末における評価額
- 売却による損益
- 売却後の保有状況
とくに「売却後の保有状況」は、購入時の開示には対応する項目がありません。企業のビットコイン保有を追う立場では、売却の開示のほうが保有残高を確定させやすいという逆転が起きています。
このページの更新方針
上場企業のビットコインは、購入も売却も適時開示という形で必ず公開の記録に残ります(制度の概要は日本取引所グループ「会社情報の適時開示制度」)。当サイトは追跡企業の適時開示を毎週自動で点検し、当サイトが表示している基準日より新しい開示が出ていないかを確認しています。新たに保有をゼロにした社が出た場合は、このページに追記します。
- 現在も保有している14社の一覧は適時開示で確認できた日本企業のビットコイン保有にあります
- 取得単価の比較は日本企業のビットコイン保有14社を比較するにあります
- 各社の最新の評価額・含み損益は日本企業BTCダッシュボードで15分ごとに再計算しています(保有量・平均取得単価は適時開示が出るたびに更新)
- 記事の一覧は学ぶにまとめています
記載の誤りや、追加すべき一次情報にお気づきの場合はお問い合わせからご連絡ください。
※本ページは公表された適時開示の事実を記録したものであり、投資助言や特定の銘柄・暗号資産の売買を推奨するものではありません。